【体験談】遠い夏を思い出す扇子

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刺繍扇子(婦人用)水仙
今回は、当サイトへお寄せいただいた扇子に関する体験談をご紹介します。

 

今回は、ある女性の扇子に関する体験談です。

 

遠い夏の扇子の思い出

64歳の主婦です。札幌に住んでもう四十六年にもなります。ふと目にした扇子という言葉に、遠いそして短い夏の日の出来事を思い出しました。

 

その叔父はお盆には必ずやって来ました。墓参りを済ませた足で我が家に顔を出すのが恒例だったのです。

 

お土産はいつもスイカと決まっていました。我が家には菓子類はもとより果物も置いてあった例が有りません。甘い美味しい世界とは無縁の子供時代だったのです。それもあって、叔父が運んでくるスイカはいつだってキラキラと輝いて見えました。

 

叔父は家に上がるように勧められても、ここで良いからと玄関に腰を掛けるのがいつもの事でした。頭には小さめのソフト帽、白い開襟シャツには下着のランニングシャツが映っていました。

 

それらはきっちりとズボンの下に入れられ、ベルトを締めたズボンは痩せている為か少しギャザーが寄っていました。帽子を傍らに置くと持参の手拭いで汗を拭い、徐ろに袋から扇子を取り出すのがお決まりでした。

 

叔父が扇子を使う仕草

この扇子に視線を落とすこと無く広げてみたり畳んでみたり、そして時折扇ぎながら暫しの間両親とよもやま話に花を咲かせるのです。

 

私はその叔父が好きでした。スイカを持って来てくれる、それも有ります。しかし理由はもっと他の処に有りました。叔父の扇子を使う仕草が幼心を捉えたのです。

 

そんな思いを誰に言うでもなく時は過ぎ、私は親元を離れ札幌に出て来ました。いつの頃からでしょうか、間違いなくオバサンになった頃から扇子を持つようになりました。

 

お気に入りの扇子

特に気に入っていたのが、扇子の専門店で見つけた花柄の布製の扇子でした。共布で袋も付いていました。

 

常に持ち歩く程気に入っていた扇子でしたが、施設に入っている母を訪ねた際、何か気に入った様子でしたので置いてくる事にしました。「お母さんにあげるね」と言うと「いいの?」と嬉しそうにしています。

 

母が扇子に興味を示すなど意外でした。その母が帰り際、扇子を差し出し「いい匂いにして」と言うのです。後日アトマイザーで香を付けてあげたのですが、母はその香の風を嬉しそうに楽しんでいました。

 

そんな愛しい母でしたが三年前に他界しました。先に父を送り、その三回忌を済ませてから母らしい慎ましやかな人生の幕を下ろしたのです。

 

昨年の春に断捨離よろしく片付けをしていた際、思わぬ物を棚の奥に見つけました。後で整理をしようと仕舞い込んでいた母のポーチでした。

 

中には何と美しいレースや小花模様の扇子、白檀扇子も入っていました。全部で6本も有ったでしょうか。微かに白檀の香を放っていました。

 

私が知らないだけだったのです。母が何を思い、何を好み、どんな時間を愛していたのか、今となっては知る術も有りません。

 

只、残された扇子を胸に抱く時、母が居た父が居たあの夏の日の情景を懐かしく思い出すのです。

 

・・・・・・・・・

今回の体験談は以上になります。

 

当店「山武扇舗」のネット通販でも、体験談に出てきたような扇子(夏扇子)を多数扱っていますので、よろしければそちらもご覧ください。

 

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